イエス・キリストは実在したのか?

※部分的にShattering the Christ Mythから編集されています。

今の時代にイエス・キリストについて聞いたことがない人を見つけるのは難しいでしょう。イエス程影響力のある歴史上の人物はほかにいません。このエッセイが書かれている現在は2008年です。つまり、イエスが生まれてから2008年が経っています。ですが、イエスが実在した人物ではないと言う人が存在するのも事実です。イエスが実在したことを否定するのは、圧倒的証拠を無視することよりほかありませんが、ここではしばし非実在説の主張を見ていきたいと思います。

イエスが実在した人物ではないという説の主唱者は、20世紀初頭の作家アーサー・ドゥルーズ、本件について5つの文献を出版しているG.A.ウェールズ、そして、アール・ドハーティーの3人です。しかし、ここで問題なのは、彼らは歴史学者ではないということです。G.A.ウェールズはドイツ語の教授で、ドゥルーズは数学の教授でした。ドハーティーはいくつかの資格を持っていますが、歴史学者ではありません。

もちろん、プロの歴史学者が全員偏っている、あるいは間違っていて、非実在説の支持者たちが客観的に見ているという可能性はあります。また、大多数に支持される見解だからといって、それが正当性を証明しているとは言えません。しかしながら、歴史に関する事柄について大多数の合意がある場合、それは各々の分野で信頼される人たちが証拠を解析したことによる場合がほとんどです。

学者はよく「異常に突飛な主張には驚くほどの証拠が必要である」と言います。イエスが実在しなかったという少数の見解は、実に強い証拠がなければ愚かなものです。非実在説の支持者が歴史学者である、もしくはそれと同じくらいの知識を持っているのであれば、彼らの主張を真剣に考える必要はあるのかもしれません。しかし、彼らはその条件を満たしていませんし、彼らの主張は主に無言論法という誤謬に基づいているに過ぎません。

簡単にいえば、イエスが実在しなかったという結論に至るためには、多くの証拠を無視し、残りの証拠を不適切に扱う必要があります。グレコ・ロマン歴史学者のマイケル・グラントは、多くの異教の人物に比べイエスの存在に関する証拠の方が多いのにも関わらず、それらの異教の人物の実在を疑う人はほとんどいないと言います。また、ジョン・マイヤーは、アレキサンダー大王に関する記述は数枚の紙に収まる程度なのに、誰もアレキサンダーの実在を疑わないと指摘しています。

ジェームズ・チャールズワースは、「イエスは実在した。紀元後70年にパレスチナに住んでいた他のユダヤ人のほとんどよりもイエスについて多くの記述がある。」と記しています。E.P.サンダーズはグラントと同様なことを書きました。「洗礼者ヨハネ、テウダ、ガリラヤのユダなど、当時同じ場所に住んでいた人たちよりはるかにイエスに関する記述が多い。」

ジェームズ・ダンは次のように書きます。
もう一つの説(非実在説)は、福音書に実際には存在しなかったある人物についての非常に一貫した伝説の複合体が、(イエスが死んでから)30年以内に生まれたのだというものである。しかし、それはあまりにも信じにくい。この説には複雑で思弁的な仮説が多すぎる。最初の3つの福音書にあるイエスの言動が実在した人物のものだと考える方がはるかに自然である。
しかし、イエスが実在した人物であるのならば、聖書以外にもイエスに関する歴史的な記述が多く残されているはずではないのでしょうか。いいえ、そうではありません。事実、聖書以外からも得られる情報が複数あるということ自体が奇跡なのです。マイヤーとハリスは、当時なぜイエスが重要人物とはみなされず、聖書以外の記述が多く残されなかったのかという理由について、次のようにまとめています。

1. 当時の歴史学者は、イエスが歴史的に重要な人物だと考えていませんでした。イエスは一度もローマの上院で演説したことはありませんでしたし、哲学の論文を書いたこともありませんでした。また、パレスチナ地域から離れたこともありませんでしたし、政党の党員でもありませんでした。アレキサンダーと比較して、サンダーズは次のように記しています。「アレキサンダーは世界の広範囲において政治状況を大きく変えた人物であったため、彼の公人としての生活に関する概要はよく知られている。一方、イエスはパレスチナの社会的、政治的、経済的状況を変えたことはなかった。」また、ハリスは次のように記しています。「ローマの著者たちにとって、その後のローマ帝国にもたらされるキリスト教の影響力を予測するのは不可能に等しかったため、彼らが(キリスト教の起源を)詳細に記録するに至ることはなかった。」

2. イエスは犯罪者として死刑にされたので、取るに足りない人物とみなされていたことは明らかでしょう。ユダヤ人の目から見ても(木につるされた者は、神にのろわれた者だから[申命記21:23])、ローマ人の目から見ても(謀反人の処刑を受けたから)、イエスは最大の侮辱を受けました。また、当時存在した他の自称「メシア」たちに比べて、イエスはそれほど危険な存在ではありませんでした。実際に、イエスの信奉者たちを抑えるために軍隊が動員されたことはありませんでした。当時の歴史記録の番人であったローマ人にとって、イエスは常習犯罪者にすぎなかったのです。

3. イエスは巡回説教師でした。彼はエルサレム以外の重要な都市を避けて旅をしました。たとえば、現在佐賀県のどこかで説教師として活動する人は有名になるでしょうか。

4. イエスの教えは、当時の聖職者たちの教えとは違ったり、反対だったりしました。ですから、イエスはそれらの人たちに嫌われていました。

5. イエスは風変わりな生活を送っていたので、多くの人を遠ざけました。そして、収税官、売春婦、弟子として選んだ漁師など、嫌われて社会からさげすまれた人々と関わっていました。

6. イエスは裕福な都会人によって支配されている土地に住んでいた貧しい田舎者でした。

最後に、元々紀元1世紀に関する資料は少ないという点に着目してみましょう。先のマイヤーによるアレキサンダー大王に関するコメントにもあるように、古代人について私たちが知っているほとんどの事柄は、数枚程度の紙にまとめることができるほどわずかなのです。すなわち、懐疑論者がイエスについて聖書以外の記述が少ないと指摘すること自体が誤っているということがわかります。他の古代人に比べたら、イエスについて知られていることのほうが多く、記録されている情報量もずっと多いのです。

新約聖書と初期のキリスト教の教父の証言は、イエスの存在と生涯を証明する証拠として充分でしょうか。ほとんどの歴史学者は、これらがイエスの存在を証明するには充分だと同意しています。イエスの生涯について信頼できる情報源かどうかは別の話です。

ハリスは次のような逸話をあげました。
イエスの実在説に関して、もっと多くの非・キリスト教者の証人が必要だとする主張の裏には、ある4人の人物による証言の存在を拒否しているという事実がある。この4人が40人ではないので拒否するべきなのだろうか。想像上の大多数の無言は、少数の証言を覆すことはできない。ある窃盗罪で告訴された人の話を思い出す。裁判では検察官が4人の目撃者を証言台に召喚して、弁護人が犯罪を目撃していない14人を証言台に召喚した。言うまでもなく、その人物は有罪判決を受けた!
実際のところ、新約聖書以外にもイエスについて記述している歴史的資料はいくつかあります−タキトゥス、ヨセフス、プリニウス、ルキアノス、スエトニウス、マラバー-セラピオーン、タルムードなどです。ここで、タキトゥスやヨセフスにおけるイエスに関する記述の真偽が問われていることを留意しなければなりませんが、大多数の意見は、付け加えがあるが真正であるとしています。例えば、ヨセフスの記述は次の通りです。
さてこのころ、イエススという賢人−実際に、彼を人と呼びことが許されるならば−が現 われた。彼は奇跡を行う者であり、また、喜んで真理を受け入れる人たちの教師でもあった。そして、多くのユダヤ人と少なからざるギリシャ人とを帰依させた。彼こそはクリストス(キリスト)だったのである。ピラトスは、彼がわれわれの指導者たちによって告発されると、十字架刑の判決を下したが、最初に彼を愛するようになった者たちは、彼を見捨てようとはしなかった。すると彼は三日目に復活して、彼らの中にその姿を見せた。すでに神の預言者たちは、これらのことや、さらに、彼に関するその他無数の驚嘆すべき事柄を語っていたが、それが実現したのである。なお、彼の名にちなんでクリスティアノイ(キリスト教徒)と呼ばれる族は、その後現在にいたるまで、連綿として残っている。
赤でハイライトされている箇所が付け加えられたと思われる個所です。例えヨセフスの文書にあるキリストの証言のほとんどが書き換えられているとしても、元々そのテキストが存在しなかったとは考えにくいことです。つまり、イエスについてのなんらかの記述があったことは間違いないでしょう。

証拠は明らかです。イエスは実在したのです。非実在説には根拠がなく、すべての証拠に逆らっているに過ぎません。

参考文献
  1. Meier, John P. - A Marginal Jew: Rethinking the Historical Jesus. New York: Doubleday, 1991.
  2. Charlesworth, James H. - Jesus Within Judaism. New York: Doubleday, 1988.
  3. Dunn, James G. D. The Evidence for Jesus. Louisville: Westminster, 1985.
  4. Sanders, E.P. - The Historical Figure of Jesus. New York: Penguin Press, 1993.
  5. Harris, Murray. 3 Crucial Questions About Jesus. Grand Rapids: Baker, 1994.
  6. Grant, Michael. Greek and Roman Historians: Information and Misinformation. London: Routledge, 1995.
  7. Harris, Murray. 3 Crucial Questions About Jesus. Grand Rapids: Baker, 1994.